「設定はマニュアル通りのはずなのに、なぜか圧力が上がりきらない」「突然の停止が繰り返される」。
その原因の多くは、リリーフ弁(油圧回路の過圧を防ぐ安全弁)の調整ミスにあります。
この記事では、MDP型ポンプのリリーフ弁が担う役割・よくある調整ミスのパターン・正しい設定手順を、マキノが納入実績6,000例以上の現場で積み上げてきた技術知見をもとに解説します。
リリーフ弁が果たす役割とMDP型ポンプの特性
フィルタープレスの脱水工程では、スラリー(液体に微細な固体が混じったドロドロの液体)を高圧でろ過チャンバーに送り込む必要があります。
MDP型ポンプはこの圧入工程を担う油圧駆動ポンプの一種で、安定した圧力を維持しながらスラリーを押し込む役割を持ちます。
リリーフ弁はその油圧回路に設けられた安全弁であり、設定圧力を超えた場合に作動油を逃がし、ポンプや配管への過負荷を防ぎます。
リリーフ弁が正常に機能するためには「設定圧力が工程要件と一致していること」が前提です。
設定圧力が低すぎると、必要な脱水圧力に達する前にリリーフ弁が開いてしまい、ろ過が完了しないまま工程が止まります。
逆に設定圧力が高すぎると、安全機能が発揮される前にポンプや配管に過大な負荷がかかり続けます。
この「適切な範囲に収める」調整こそが、安定稼働の基本です。
マキノの納入実績6,000例以上の中で確認されている事実として、突発停止の原因の多くは機器の物理的な破損より先に、油圧系の設定値のズレから始まっています。
設定値が正しければ防げたトラブルが、気づかれないまま「経年劣化」として処理されているケースが少なくありません。
現場で繰り返されるリリーフ弁の調整ミス3パターン
現場での調整ミスには、繰り返し現れるパターンがあります。
以下の3つは、マキノがメンテナンス対応の中で頻繁に確認している事例です。
パターン1|スラリー変更後の再調整忘れ
処理するスラリーの性状(粘度・固形分濃度)が変わると、必要な圧入圧力も変わります。
しかし「以前の設定でも動いているから」という理由でリリーフ弁の設定を変えないまま運転を続けるケースがあります。
粘度が上がったスラリーを元の設定圧力で押し込もうとすると、ポンプが過負荷状態になりやすく、リリーフ弁が頻繁に開放される「圧抜け」が起きます。
圧抜けが繰り返されると脱水サイクルが延び、含水率(分離後の固形分に残る水分の割合)が目標値を超える原因になります。
パターン2|オーバーホール後の設定戻し忘れ
油圧ユニットのメンテナンスやポンプ交換後に、リリーフ弁をメーカー出荷時の初期値に戻したまま運転を再開するケースがあります。
初期設定値は標準的な用途を想定した値であり、各工場のスラリー性状・処理量・目標含水率に合った最適値とは異なる場合があります。
「交換直後から調子が悪い」という問い合わせの背景には、このパターンが隠れていることがあります。
パターン3|担当者交代による引き継ぎ不備
設備を長年担当してきた技術者が退職・異動した際、設定値の根拠と調整履歴が引き継がれないケースがあります。
新担当者がマニュアル記載の標準値に戻してしまうと、前任者が現場に合わせて微調整してきた値が失われます。
設定値の変更履歴をポンプ周辺の機器台帳に記録し、「なぜその値にしたか」の理由を残しておくことが、引き継ぎ時のトラブルを防ぐ最低限の手順です。
リリーフ弁を正しく調整するための3ステップ
調整の基本は「目標とする脱水圧力からリリーフ弁設定値を逆算する」という考え方です。
以下の手順で進めることで、現場に合った設定値を数値として根拠を持って決定できます。
ステップ1|目標脱水圧力を数値で確認する
まず処理するスラリーの性状と目標含水率から、必要な圧入圧力を確認します。
マキノでは納入時に各工場のスラリーに対して圧力・ろ布(液体だけを通して固体を堰き止める特殊なフィルター)・サイクル時間の最適値を設計していますが、スラリーの性状が変化した場合はラボテストによって再設定値を確認することを推奨します。
ラボテストに必要なサンプル量は概ね10リットルからポリタンク1本(20リットル程度)が目安です。
目標脱水圧力を数値で把握していない状態でリリーフ弁を調整すると、「大体この辺」という経験値頼みになり、再現性が失われます。
ステップ2|設定値を目標圧力より10〜15%高く設定する
リリーフ弁の設定値は、目標脱水圧力に対して10〜15%の余裕を持たせることが基本です。
たとえば目標圧力が1.0MPaの場合、リリーフ弁設定値は1.1〜1.15MPa程度が目安になります。
マキノが推奨する上限圧力は1.5MPa(大気圧の約15倍に相当する圧力)です。
この範囲を超えた設定は、ポンプ・シリンダー・配管への負荷が設計上限を超えるため避けてください。
ステップ3|実運転データで設定値を検証・記録する
設定変更後は、数サイクル分の圧力推移・脱水時間・含水率を記録し、目標値に収まっているかを確認します。
リリーフ弁が適切に機能しているときは、脱水圧力が設定値に達した後に安定し、その状態が保持されます。
頻繁に圧力が抜ける・設定値まで上がらない・脱水時間が延びているといった変化が出た場合は、スラリー性状の変化かポンプ・バルブの摩耗を疑って点検します。
設定値の変更日と変更理由を機器台帳に記録することが、次回の調整時の根拠になります。
安全管理として仕組み化する意味
近年、製造業の現場では労働安全衛生法に基づく設備安全管理への要求が高まっています。
油圧系の設定値ミスによる事故は「人的ミス」として処理されやすいですが、設定値の根拠と変更履歴が文書化されていないことが根本原因であるケースが多くあります。
リリーフ弁の設定値を機器台帳で管理し、変更時に承認フローを設けることは、安全管理の「仕組み化」として機能します。
「誰が調整しても同じ結果になる」状態が実現すると、担当者交代による設定ミスのリスクが構造的に下がります。
これは設備管理の話にとどまらず、生産安定性と人材育成にも直結する投資です。
マキノは納入後のメンテナンス対応の中で、設定値の根拠説明と記録フォーマットの提供も行っています。
設定値の適切な管理が継続されることで、設備の耐用年数を最大化できます。
創業1932年・納入実績6,000例以上。設定値の見直しでお困りの際はマキノへご相談ください。
まとめ
リリーフ弁の調整ミスは、フィルタープレスの突発停止・含水率の悪化・設備への過負荷という形で現場に影響します。
スラリーが変わったとき・オーバーホール後・担当者が交代したとき、この3つが設定値を見直す重要なタイミングです。
調整の基本は「目標脱水圧力を数値で確認し、リリーフ弁設定値を10〜15%高く設定し、実運転で検証する」という3ステップにあります。
設定値の変更履歴を記録に残すことが、再現性のある安全管理体制の基盤になります。
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FAQ|よくある質問
Q:リリーフ弁の設定を適正化すると、産廃コストはどう変わりますか?
直接の効果として含水率(分離後の固形分に残る水分の割合)が改善され、廃棄物重量が減少します。
含水率が5ポイント下がると年間数百トンの廃棄物重量削減になり、産廃処理費(約2万円/t想定)換算で年間数百万円の削減効果が生まれるケースがあります。
加えて突発停止が減ることで、生産損失のリスクが下がります。
Q:リリーフ弁の設定値はどの頻度で確認すればよいですか?
スラリーの性状変化(原材料・工程変更)があった際は必ず確認します。
定期メンテナンスの一環として6カ月〜1年ごとに設定値を点検することも有効です。
含水率の悪化・脱水サイクルの延長といった変化が出た場合も、リリーフ弁の設定値を確認するタイミングとして捉えてください。
Q:リリーフ弁の調整は自社で行えますか、それとも専門業者に依頼すべきですか?
調整作業自体は設備担当者が実施できますが、「目標脱水圧力の根拠を数値で把握していること」が前提です。
スラリー性状の変化に伴う再設定の場合は、ラボテストによる最適値の確認を推奨します。
マキノではラボテストの依頼受付から設定値の提案まで対応しておりますので、自社での判断が難しい場合はご相談ください。






