印刷・インク廃水に含まれる微細顔料を確実に除去するろ布選定と精密ろ過の進め方
フィルタープレスを導入したのに、処理後の排水がまだ濁っている。そんな状況に心当たりはないでしょうか。印刷廃水やインク廃水にはカーボンブラックや有機顔料といった粒径1μm前後の微細粒子が含まれており、汎用ろ布では目開きをすり抜けてしまうことが少なくありません。この記事では、なぜ微細顔料が除去しにくいのか、どのようにろ布と処理条件を選べばよいのか、工場の設備担当者が判断できるレベルで整理します。
印刷廃水の「難しさ」はどこにあるのか
印刷・パッケージ業界の廃水には、大きく分けて三種類の成分が混在しています。一つ目はカーボンブラックや有機顔料などの着色粒子、二つ目はアクリル樹脂やウレタン樹脂といったバインダー樹脂、三つ目は分散剤や湿潤剤などの界面活性剤です。
問題はその粒径にあります。工業用顔料の一次粒子径は0.1〜1μm程度、凝集した状態でも数μm程度にとどまるものが多く、汎用ろ布が持つ10〜50μm程度の見かけの保留粒径と比べると、かなり小さい部類に入ります。加えて、バインダー樹脂が微粒子の表面を覆い、粒子同士の凝集を妨げる方向に働くことがあります。界面活性剤も同様に、粒子をコロイド状に安定させる効果があるため、「固体なのに沈まない・ろ過でも取れない」状態が生じやすいのです。
「ろ布を替えてみたが変わらなかった」という声をよく聞きます。ろ布の種類だけを変えてもうまくいかない場合、多くは前処理の凝集条件と組み合わせて見直す必要があります。単独の対策で解決しようとすると、手間も費用も余計にかかりがちです。
ろ布選定で見るべき三つのポイント
ろ布の選定は、目開きの大小だけを見ていても正解にたどり着けません。印刷廃水の場合、以下の三つをセットで判断します。
目開き(メッシュ)と繊維構造
ろ布の保留性能は、目開きの大きさだけでなく繊維の織り方によっても変わります。モノフィラメント(単繊維)織りは表面が平滑で目詰まりしにくい反面、微細粒子を通しやすい傾向があります。マルチフィラメント(多繊維)織りは繊維間の空隙が複雑に絡み合うため、μmオーダーの粒子を捕捉しやすいですが、ケーク剥離性がやや落ちます。
印刷廃水のように微細粒子が多い場合、マルチフィラメントまたはニードルフェルト系のろ布が選ばれることが多く、実質的な保留粒径を1〜5μm程度に設定できるものを用います。スラリーの粒径分布データを事前に取得しておくと、ろ布選定の根拠が明確になります。
ろ布の耐薬品性
インク廃水にはアルカリ性洗浄水が混入することがあり、ろ布の素材がポリプロピレン(PP)かポリエステル(PET)かで耐アルカリ性が異なります。PPは強アルカリに比較的強く、PETは酸性域に強い特性を持ちます。廃水のpH範囲を把握したうえで素材を決める必要があります。
ケーク剥離性
精密ろ過用途では保留性能を上げるほどろ布が目詰まりしやすくなるトレードオフがあります。自動圧搾やダイヤフラム機構を持つ機種ではケーク剥離性の高いろ布が使いやすく、手動タイプでは開口板構造との組み合わせで補います。
凝集処理との組み合わせが分離精度を決める
精密ろ過の前段として凝集処理を行うことで、微細顔料を数十〜数百μmのフロック(凝集塊)に成長させることができます。フロックになればろ布で確実に捕捉でき、処理後の排水濁度を大幅に下げられます。
凝集剤には無機系(硫酸アルミニウム、塩化第二鉄など)と高分子系(ポリアクリルアミド系)の二種類があります。印刷廃水のように界面活性剤が多い場合、まず無機凝集剤で電荷を中和し、次に高分子凝集剤でフロックを成長させる二段処理が有効です。
ここで一度、前提を確認したいことがあります。「凝集剤さえ入れればろ布は何でもよい」と考えていませんか。実際には、凝集処理で作られたフロックは柔らかく、フィルタープレスの加圧過程でつぶれやすい性質があります。フロックがつぶれると微細粒子が再び遊離し、ろ液が濁る原因になります。加圧速度や最終圧力の設定も、ろ布選定と同じレベルで重要な調整項目です。
処理のながれをまとめると以下のようになります。
廃水受入タンク
↓
無機凝集剤添加・攪拌(pH調整を含む)
↓
高分子凝集剤添加・緩速攪拌(フロック成長)
↓
フィルタープレス圧入(加圧速度を段階的に上げる)
↓
ろ液排出・ケーク排出
↓
ろ液の透明度確認(必要に応じ再処理)
この流れのどの段階に問題があるかを特定しないまま「ろ布だけ」「凝集剤だけ」を変えても、根本的な解決には至りません。
MSASシリーズが選ばれる理由
株式会社マキノが提供するMSASシリーズは、小ロット・特殊廃液の精密ろ過を主な用途として設計された手動タイプのフィルタープレスです。印刷業では廃水の発生量が生産品目によって大きく変動するため、大型の全自動機を常時稼働させるよりも、MSASシリーズのような小型精密機で必要な分だけ処理するほうが設備コストを抑えられる場合があります。
マキノが重視しているのは、スラリーの粒径分布と粘度を事前に把握し、そのデータをもとにろ布の素材・織り方・目開きを一品一様で選定するプロセスです。6,000例以上の納入実績から得られた知見により、汎用品では対応できない廃液に対しても、最適なろ布仕様を提案できます。
たとえば、含水率が5%改善するだけで産廃処理費(約2万円/t)の換算で年間数百万円の削減につながるケースがあります。処理後のケーク含水率を50〜60%台まで下げることができれば、廃棄物量そのものが減り、廃液処理の外部委託費用も圧縮できます。ろ布一枚の選定が、数年スパンの運用コストに直結するのが現実です。
現場で確認すべきチェックポイント
処理がうまくいっていない場合、まず以下の項目を順に確認することを勧めます。
(1)廃水の粒径分布と粘度を把握しているか
→ 粒径データがなければ適切なろ布を選べない。レーザー回折式の粒度分布測定が目安になる。
(2)凝集処理のpHと薬剤添加量が最適化されているか
→ pHが適正範囲を外れると凝集効率が下がり、フロックが小さくなる。
(3)フィルタープレスへの圧入速度が速すぎないか
→ 初期の急加圧はケーク層が形成される前にろ布を詰まらせる原因になる。
(4)ろ布の洗浄頻度・方法は適切か
→ 目詰まりしたろ布は保留性能だけでなく脱水効率も落とす。高圧洗浄と薬品洗浄の使い分けを確認する。
(5)ケークの含水率を定期的に測定しているか
→ 含水率の変化はろ布の劣化やプロセス条件のずれを早期に検知する指標になる。
これらを一度に全部対策しようとする必要はありません。まず(1)と(2)を確認し、データが揃ってからろ布選定の見直しに進むのが現実的な順序です。
まとめ
印刷・インク廃水に含まれる微細顔料の除去が難しい根本的な理由は、粒径の小ささとバインダー・界面活性剤による凝集阻害にあります。ろ布の目開きと繊維構造を廃水の粒径分布に合わせて選定し、凝集処理の条件を最適化することで、処理後の排水濁度を安定して下げることができます。含水率を5%改善するだけで産廃処理費の換算で年間数百万円の削減につながるケースもあり、ろ布選定は単なる消耗品の話ではなく、工場全体の運用コストに関わる判断です。現場の廃水データを持ち寄り、専門家と一緒に条件を絞り込んでいくのが、最短で安定稼働にたどり着く道です。
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FAQ|よくある質問
Q:ろ布の目開きはどれくらいが目安ですか?
処理対象の廃水中に含まれる顔料粒子の粒径分布によって変わります。印刷廃水のように1〜5μmの微細粒子が主体の場合、実質的な保留粒径が1〜5μmになるマルチフィラメント織りやニードルフェルト系のろ布が選ばれることが多いです。ただし、凝集処理でフロック径を数十μm以上に成長させてからフィルタープレスに送れば、より標準的なろ布でも対応できる場合があります。事前に粒度分布を測定したうえで選定することを勧めます。
Q:凝集処理の薬剤はどう選べばよいですか?
まず廃水のpHと電気伝導度を測定します。界面活性剤を含む印刷廃水では、無機凝集剤(硫酸アルミニウムや塩化第二鉄)でコロイド粒子の電荷を中和したあと、高分子凝集剤(ポリアクリルアミド系)でフロックを成長させる二段処理が有効なことが多いです。薬剤の種類と添加量はジャーテスト(小規模攪拌実験)で事前確認するのが標準的な方法で、最適なpH範囲はおおむね6〜8程度に調整します。
Q:ろ布の交換時期はどう判断すればよいですか?
交換の目安は主に三つです。一つ目はろ液の透明度が安定しなくなった時点、二つ目は同じ運転条件でケークの含水率が従来より5%以上高くなった時点、三つ目はろ布の物理的な破れや目詰まりが高圧洗浄・薬品洗浄後も改善しない時点です。使用頻度や廃液の性状によって交換周期は異なるため、含水率と透過流量の記録を残しておくと交換タイミングの判断が容易になります。







