
「フィルタープレス」という言葉を耳にしたことがあっても、その仕組みや何ができるのかを正確に説明できる方は、意外と少ないかもしれません。
フィルタープレスとは、液体の中に混ざり合った固形物を、圧力をかけてろ布で分離する「加圧ろ過装置」のことです。
工場排水の浄化、化学品の製造、食品の精製、産業廃棄物の減量まで、あらゆる「粉と水」を扱う現場で活躍しています。
株式会社マキノは、愛知県常滑市で1932年の創業以来、90年以上にわたってフィルタープレスを専門に設計・製造してきた、国内でも数少ない専業メーカーです。
本記事では、フィルタープレスの基本原理から種類・他機種との比較・選定のポイントまでを、現場に精通した私たちの視点から徹底解説します。
フィルタープレスとは|基本原理をわかりやすく解説
フィルタープレスの仕組みは、シンプルな物理現象を極限まで磨き上げたものです。
液体に固体粒子が混ざり合った「スラリー」を、特殊な布(ろ布)で仕切られた密閉空間に高圧で送り込みます。
すると、液体だけがろ布の繊維の隙間を通り抜けて排出され、固形分だけが残ります。
この残った固形分を「ろ過ケーキ」と呼び、水分が抜けて板状に固まったものが装置から取り出されます。
操作は大きく6つの工程で成り立っています。
① 閉板工程
油圧シリンダーによってろ板を締め付け、ろ室(スラリーが入る密閉空間)を形成します。
② 圧入工程
ポンプでスラリーをろ室内に送り込みます。固形物がろ布に堆積し始め、ろ液(きれいになった液体)が外部へ排出されます。
③ 圧搾工程
ダイアフラム(膜)内に加圧水を注入し、ケーキをさらに物理的に絞り上げます。この工程が「含水率をどこまで下げられるか」を左右する最重要プロセスです。
④ 開板工程
圧搾が完了したら、油圧シリンダーでろ板を開きます。
⑤ ケーキ剥離工程
ろ布が走行し、板状に固まったろ過ケーキを自動で剥離・落下させます。
⑥ ろ布洗浄工程
次のサイクルに備え、ろ布に残った微細な粒子を洗い流します。この工程を怠るとろ布の目詰まりが進み、性能低下につながります。
この6工程を繰り返すことで、大量のスラリーを安定して処理し続けることができます。
フィルタープレスの種類と特徴
フィルタープレスは、圧搾方式と自動化レベルの組み合わせによっていくつかの種類に分類されます。
ここでは、マキノの製品ラインナップを例に、それぞれの特徴をご説明します。
単純加圧式(DMSシリーズ・MFシリーズ)
ポンプの供給圧力だけでろ過を行うシンプルな方式です。
構造が堅牢で故障が少なく、導入コストも抑えられます。
小〜中規模の排水処理や、セラミックス原料の精製といった用途に多く採用されています。
MFシリーズは全自動運転に対応しており、大規模な産業排水処理にも対応可能です。
圧搾式・ダイアフラム方式(MDFWシリーズ・MDFシリーズ)
ろ過後にダイアフラム(ゴム製の膜)でケーキをさらに物理的に圧縮する方式です。
マキノのMDFシリーズは最大1.5MPa(大気圧の約15倍)という高圧圧搾が可能で、他の方式では到達できない極限の低含水率を実現します。
化学・鉄鋼・産廃処理など、脱水性能が利益に直結する現場で選ばれています。
MDFシリーズは全自動化に対応し、供給からケーキ排出・ろ布洗浄まで一連の工程を無人で稼働させることができます。
手動・シートフィルタ方式(MSASシリーズ)
シートフィルタを使用した手動操作の方式です。
少量の精密ろ過や、ラボスケールでの検証に適しています。
他の脱水機との比較|なぜフィルタープレスが選ばれるのか
固液分離の装置はフィルタープレスだけではありません。
スクリュープレス・遠心分離機・真空脱水機・ベルトプレスなど、さまざまな方式があります。
ではなぜ、フィルタープレスが多くの現場で選ばれ続けているのでしょうか。
最大の理由は「含水率の低さ」です。
フィルタープレスは物理的な圧搾力を使うため、他の脱水方式では届かない含水率60%という領域まで脱水することが可能です。
含水率がわずか5%下がるだけで、産廃として運搬・処分する廃棄物の重量が大幅に減り、年間数百万円単位のコスト削減につながるケースもあります。
また、フィルタープレスはスラリーの性質(濃度・粘度・粒子径・pH)が変動しても安定した処理ができる点も大きな強みです。
スクリュープレスや多重円板型は原液変動への対応が難しく、食品・化学・鉱業のように原料が変わりやすい現場では、フィルタープレスの柔軟性が光ります。
一方で、フィルタープレスはバッチ処理(1サイクルごとに処理する方式)のため、完全な連続処理には向きません。
ただし、マキノの全自動モデルはサイクルの高速化によって、連続処理に近い生産性を実現しています。
処理量・コスト・脱水性能のバランスを考えたとき、フィルタープレスは多くの現場で最もコストパフォーマンスの高い選択肢になります。
フィルタープレスが活躍する業界・用途
フィルタープレスの適用範囲は非常に広く、業種を問わずさまざまな現場で導入されています。
化学・素材
カルシウム・マグネシウム・顔料・染料・触媒・医薬原料など、製造プロセスで発生するスラリーの分離・精製に使われます。薬品耐性の高い材質を使った特殊仕様にも対応しています。
鉄鋼・非鉄金属
高炉・転炉廃水、圧延・鋳造廃水、表面処理廃水など、金属加工に伴う汚泥の脱水処理に活躍します。重金属を含む汚泥も、薬注処理と組み合わせることで確実に捕捉できます。
半導体・電子部品
CMPスラリー(半導体研磨廃液)など、極めて微細な粒子を含む難ろ過性の廃液処理においても、高圧技術と最適なろ布選定の組み合わせで対応可能です。
リチウムイオン電池・都市鉱山
使用済み電池から発生するブラックマス(活物質の混合粉末)のろ過・回収は、マキノの1.5MPa圧搾技術が真価を発揮する分野です。レアメタルを含む微細粒子を逃さず回収し、資源リサイクルの効率を高めます。
食品・飲料
アミノ酸・澱粉・醸造・製糖・油脂などの製造工程で、原料の濃縮や副産物の分離に使われます。衛生管理が求められる用途にはサニタリー仕様での対応も可能です。
土木・建設
トンネル掘削や大規模土木工事で発生する高濃度の泥水・濁水処理に、可搬型のフィルタープレスが活躍します。リニア中央新幹線のトンネル工事でも採用実績があります。
官公庁・インフラ
浄水場・工業用水処理・下水処理など、公共インフラの水処理プロセスにも幅広く導入されています。
選定のポイント|失敗しない導入のために
フィルタープレスの導入で最もよくある失敗が、「スペックだけで機種を選んでしまう」ことです。
処理するスラリーの性質は現場ごとに千差万別であり、同じ業界であっても工場によってまったく異なる挙動を示すことがあります。
選定で確認すべき主なポイントは以下の通りです。
スラリーの性状を把握する
濃度・pH・温度・粘度・粒子径を事前に測定することが出発点です。これらの数値によって、最適な圧力設定・ろ布の素材・サイクル時間が変わります。
目標含水率とROIを明確にする
「どこまで乾かせば産廃費用がいくら下がるか」を事前に試算することで、機種選定の根拠が明確になります。含水率の目標値と月間処理量から、投資回収期間を算出することが可能です。
自動化レベルを検討する
手動・半自動・全自動のどのレベルが自社の現場に合うかは、処理量・人員・稼働時間によって異なります。全自動化は人件費削減とヒューマンエラー防止に効果的ですが、初期投資とのバランスを検討する必要があります。
ろ過テストを必ず実施する
マキノでは、お客様からお預かりしたスラリーのサンプルを愛知県常滑市の本社ラボで実際にテストし、含水率・ろ過速度・最適圧力を数値データとして提示します。
カタログスペックではなく、物理的な根拠に基づいた提案こそが、導入後のトラブルを防ぎ、ROIを最大化する最短ルートです。
FAQ|よくある質問
Q:フィルタープレスとろ過機(フィルター)は何が違うのですか?
一般的な「ろ過機(フィルター)」が液体を自然に通過させるのに対し、フィルタープレスは「加圧」することで強制的に固液分離を行う装置です。
圧力をかけることで、自然ろ過では取り除けない微細な粒子や、粘り気のある液体でも高効率に分離できます。「プレス(press=押す)」という名前の通り、圧力こそがフィルタープレスの本質です。
Q:導入コストと回収期間の目安を教えてください。
機種・規模・自動化レベルによって異なりますが、産廃処理コストの削減額によっては1〜3年程度での投資回収が見込める事例が多くあります。
特に、現在の装置で含水率が高い状態のまま処理している場合、「水分を運ぶコスト」が積み重なっており、改善幅が大きくなります。まずはろ過テストで現状の含水率を可視化することをお勧めします。
Q:メンテナンスはどのくらいの頻度で必要ですか?
日常点検(毎サイクルのろ板洗浄・ろ液確認)のほか、週次での油圧オイル確認、月次でのろ布洗浄・ガスケット点検が基本です。
ろ布の交換は一般的に6〜12ヶ月ごとが目安ですが、処理するスラリーの種類や稼働頻度によって大きく変わります。マキノでは稼働データに基づいた最適な交換タイミングのアドバイスも行っており、突発的なライン停止を防ぐサポート体制を整えています。
Q:小規模な現場でも導入できますか?
はい、対応可能です。マキノのDMSシリーズ(半自動)やMSASシリーズ(手動・シートフィルタ)は、小〜中規模の処理量に対応したコンパクトな機種です。
「まずどのくらいの規模が必要か」からヒアリングし、過剰スペックにならない「最小・最適サイズ」をご提案します。大きな装置を入れれば良いという発想ではなく、現場の処理量と稼働シフトに合わせた設計がマキノの流儀です。






