2026年2月、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が運用する地球深部探査船「ちきゅう」が水深約6,000メートルの海底から、レアアース(希土類)を含む泥の試験採取に成功しました。
中国が世界生産の7割を握る現状において、この供給構造を根本から変えうる可能性を秘めたプロジェクトですが、いま最も注目されている技術課題は「船上での脱水・減容化」に他なりません。
この記事では、南鳥島レアアース泥プロジェクトの採掘プロセスを整理し、船上でのフィルタープレスによる脱水がなぜ事業の成否を左右するのかを、マキノの技術的視点から解説します。
南鳥島レアアース泥とは何か
南鳥島は東京から約1,950キロメートル離れた日本最東端の島であり、その周辺の排他的経済水域(EEZ)海底下6,000メートルには、世界有数の高濃度レアアース泥が広範囲にわたって存在することが確認されています。
レアアース(希土類)とは、電気自動車のモーター・風力発電機・半導体・スマートフォンなど、現代のハイテク産業に不可欠な17元素の総称です。
特にネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)は、高性能磁石に欠かせない素材として知られています。
世界のレアアース生産の約7割を中国が占める中、同国は2025年以降、レアアースの輸出規制を外交カードとして活用し始めました。
南鳥島のレアアース泥は、こうした中国依存の構造を崩す「ゲームチェンジャー」として、経済安全保障の観点から国家プロジェクトとして進められています。
2026年1月から2月にかけて、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として、「ちきゅう」が採鉱システムの接続試験を実施し、試験採取に成功しました。
2027年2月には1日あたり約350トンの本格採鉱試験が予定されており、2028年度以降の産業化に向けて開発が加速しています。
採掘プロセスの全体像と脱水の位置づけ
南鳥島レアアース泥の採掘から製品化までのプロセスは、大きく「海上作業」と「陸上工場」の2段階に分かれます。
海上作業フェーズ
まず、水深6,000メートルの海底で採掘機がレアアース泥を解泥・採泥します。
次に、ライザーパイプを通じてスラリー状(液体に微細な固体が混じったドロドロの液体)のレアアース泥を船上まで揚泥します。
船上に引き揚げた段階では、レアアース泥は大量の海水を含んだ高含水率の状態です。
ここで行われるのが「船上前処理(粗分離・脱水)」であり、スクリーンによる分級とフィルタープレスによる脱水によって、余分な水分を除去して濃縮泥にします。
この濃縮泥を船から陸上へ輸送する流れとなります。
陸上工場フェーズ
陸上では、乾燥・均質化の前処理を行い、酸による化学浸出でレアアースを溶解します。
その後、溶媒抽出などの分離・精製工程を経て、最終的にネオジム・ジスプロシウムなどのレアアース酸化物が得られます。
陸上工程でも浸出後の残渣分離・中間固液分離・廃滓処理において、フィルタープレスによる固液分離が重要な役割を果たします。
「どこまで水を切れるか」が事業の成否を決める
南鳥島のレアアース泥プロジェクトにおいて、船上での脱水性能が事業全体の採算性を左右する根本的な理由があります。
採掘されたレアアース泥は、揚泥された段階では大量の海水を含んでいます。
この水分を船上でどこまで除去できるかが、陸上への輸送コストに直結するのです。
東京から約1,950キロメートルという距離を船で輸送するコストは、輸送重量にほぼ比例します。
含水率(分離後の固形分に残る水分の割合)が1%下がるだけで輸送重量が大幅に減少し、それが直接的な収益の改善につながります。
2027年の本格採鉱試験では1日あたり約350トンの採掘が計画されています。
この規模で連続稼働した場合、脱水率のわずかな差が積み重なり、年間の輸送コストに数億円単位の差をもたらす可能性も否定できません。
「どこまで水を切れるか」という問いが、南鳥島レアアース事業の採算性を根本から左右する理由はここにあります。
船上フィルタープレスに求められる特殊条件
陸上での脱水とは異なり、船上でのフィルタープレス運用には極めて高い技術要件が求められます。
耐腐食性
レアアース泥は海水と混合した状態で揚泥されます。
海水・塩分・さらに陸上の精製工程では酸との接触が生じるため、フィルタープレスの接液部には高い耐腐食性が欠かせません。
マキノのMDFシリーズが採用する樹脂製(ポリプロピレン)ろ過板は、酸・アルカリへの高い耐性を発揮する設計です。
揺動下での安定稼働
洋上という環境では、波浪や揺れの中でも安定したろ過性能を維持しなければなりません。
フィルタープレスは油圧による締め付け圧力で密閉空間を形成してろ過を行う構造のため、揺動下でも機械的な安定性が保たれやすい特性があります。
連続運転・無人化対応の全自動モデルは、船上での省人化という観点からも重要な要件です。
超微粒泥への対応力
レアアース泥は粘土質の超微粒子を含む難ろ過性のスラリーです。
通常のフィルタープレスでは処理しきれない微細粒子を確実に捕捉するには、大気圧の約15倍に相当する圧力(1.5MPa)での高圧圧搾と、スラリーの性状に合わせた最適なろ布(液体だけを通して固体を堰き止める特殊なフィルター)の選定が不可欠です。
マキノが南鳥島プロジェクトに向き合う理由
株式会社マキノは1932年の創業以来、愛知県常滑市でフィルタープレスの設計・製造を専業として90年以上続けてきました。
6,000例以上の納入実績の中には、化学・鉄鋼・半導体・食品・リサイクルと、多種多様な難ろ過性スラリーへの対応が含まれています。
南鳥島レアアース泥プロジェクトは、マキノが長年培ってきた技術の集大成が問われる舞台だと考えています。
超微粒泥の高圧脱水・耐腐食設計・無人連続運転・一品一様の設計——これらはすべて、マキノがフィルタープレス専業として蓄積してきた技術です。
現在進行中の採掘試験フェーズでは先行する装置が稼働していますが、2028年度以降の産業化・量産フェーズに向けて、マキノは技術提案の準備を本格化しています。
量産化という本番フェーズに求められるのは、実証試験とは次元の異なる耐久性・安定性・コスト競争力です。
その段階でこそ、90年以上にわたって難ろ過性スラリーと向き合ってきた専業メーカーとしての実力が問われると考えています。
粉砕・ろ過・乾燥を一貫して自社で設計・製造できるメーカーは国内でも稀であり、採掘から精製まで複数工程でフィルタープレスが必要となるこのプロジェクトに対して、システム全体を視野に入れた提案が可能です。
FAQ|よくある質問
Q:レアアース泥のような難ろ過性スラリーでも、マキノのフィルタープレスは対応できますか?
はい、対応可能です。マキノでは、愛知県常滑市の本社ラボにて実際のスラリーサンプルを使ったろ過テストを実施しています。
レアアース泥のような超微粒子・高粘性・難ろ過性のスラリーに対しては、最大1.5MPaの高圧圧搾と、スラリーの性状に合わせたろ布選定によって対応します。
まずはサンプルと処理条件をお知らせください。
Q:船上での運用を想定した耐腐食・耐揺動仕様の設計は可能ですか?
可能です。マキノは一品一様の設計を基本としており、海水・塩分・酸環境に対応した耐腐食仕様や、揺動下での安定稼働を考慮した設計について、ご要件をヒアリングしたうえで対応します。
船上運用という特殊条件に対しても、これまでの難ろ過性スラリーへの対応実績をベースに技術的な検討が可能です。
まずは技術的なご要件をお聞かせください。
Q:採掘から精製まで複数工程でのシステム提案は可能ですか?
はい、対応可能です。マキノは粉砕・ろ過・乾燥を一貫して自社で設計・製造できる専業メーカーです。
船上前処理(脱水)から陸上精製工程(固液分離・精密ろ過)まで、複数工程にわたるシステム全体を視野に入れた提案が可能です。
プロジェクトの段階・規模・技術的要件をお知らせいただければ、具体的な検討を開始します。
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