南鳥島レアアース泥プロジェクトにおいて、フィルタープレスに求められる技術要件は陸上での脱水とはまったく異なります。
海水・塩分・酸という過酷な腐食環境に加え、波浪による揺動、そして粘土質の超微粒泥という「3つの壁」が、船上という極限環境に重なって立ちはだかるためです。
この記事では、南鳥島プロジェクトの船上脱水工程でフィルタープレスが直面する3つの技術的課題と、それらに対してマキノがどう応えるのかを具体的に解説します。
※プロジェクトの全体像については南鳥島レアアース泥 船上脱水がプロジェクトの採算性を決める理由をご覧ください。
なぜ船上脱水はこれほど難しいのか
水深6,000メートルの海底から揚泥されたレアアース泥は、大量の海水を含んだスラリー状(液体に微細な固体が混じったドロドロの液体)で船上に到達します。
この泥を陸上へ輸送する前に船上で脱水・減容化できるかどうかが、プロジェクトの採算性を左右する大きな鍵となります。
しかし船上での脱水作業は、陸上の工場とは根本的に異なる条件下での稼働を強いられます。
東京から約1,950キロメートル離れた洋上という環境では、設備の故障対応やメンテナンス、部品調達のいずれも陸上より格段に困難です。
一度トラブルが起きれば採掘作業全体がストップし、1日あたり数百トン規模の採掘機会を失いかねません。
修理のために港へ戻るだけでも数日を要し、その間の機会損失は甚大です。
だからこそ、船上のフィルタープレスには「止まらないこと」が最優先の要件として課せられるのです。
さらに洋上設備は、陸上と違って設置スペース・重量・重心位置にも厳しい制約があります。
装置の選定から設計段階まで、船上運用という特殊条件を前提に組み込んだ検討が不可欠です。
こうした複合的な制約の中で、以下の3つの技術的な壁が立ちはだかります。
壁① 海水・酸に耐える腐食対策
揚泥されたレアアース泥には大量の海水が含まれています。
海水中の塩化物イオンは金属を急速に腐食させるため、一般的な金属製フィルタープレスでは短期間で接液部が劣化し、性能低下や漏れが生じてしまいます。
洋上という補修が困難な環境では、腐食による機能不全が事業全体を止めるリスクに直結します。
さらに将来の商業化フェーズでは、船上でのリーチングプロセス(酸によるレアアース溶出)も検討されており、酸性環境への対応が不可欠となります。
酸に触れた金属イオンがレアアース泥に混入すると、後工程の精製品質に悪影響を及ぼすため、金属コンタミネーション(金属汚染)の防止も重要な要件です。
これに対し、マキノのMDFシリーズが採用する樹脂製(ポリプロピレン)ろ過板は、海水・塩分・酸・アルカリに対して高い耐性を発揮します。
接液部を金属フリーの設計にすることで、腐食による性能劣化と金属コンタミネーションの両方を同時に防ぐことが可能です。
また樹脂製ろ過板は軽量なため、船上設置における重量制限への対応にも有利に働きます。
壁② 揺動下でも止まらない連続稼働
洋上では波浪・うねり・船体の動揺が常時発生します。
こうした揺動下では、フィルタープレスの油圧システムに気泡が混入しやすくなり、締め付け圧力が不安定になるリスクが伴います。
むしろ板間の密閉が不完全になれば、スラリーが漏れ出し、ろ過性能は急激に低下してしまいます。
フィルタープレスは構造上、油圧シリンダーによる強力な締め付けで密閉空間を形成するため、適切な設計がなされていれば揺動下でも機械的な安定性を保ちやすい特性を持っています。
重要なのは油圧システムの設計であり、揺動環境を想定したエア抜き機構・圧力補償機能・シール材の選定が求められます。
また、船上での省人化も避けては通れない課題です。
1日あたり約350トンという大量の泥を少人数で安定して処理するには、スラリー圧入からケーキ排出、ろ布洗浄までを自動で行う全自動モデルが前提となります。
マキノのMDFシリーズは全工程の自動化に対応しており、連続運転・無人稼働において確かな実績を誇ります。
壁③ 粘土質超微粒泥を捕捉する高圧設計
南鳥島のレアアース泥は、魚の骨に由来するリン酸カルシウム(アパタイト)に濃縮されたレアアースを含む、粘土質の超微粒子スラリーです。
粒子径が極めて小さく粘性が高いため、通常の圧力では十分な固液分離ができず、含水率が高いままケーキが形成されてしまいます。
この課題を解決するのが、マキノの「高圧圧搾」技術です。
大気圧の約15倍に相当する圧力(1.5MPa)でダイアフラム(弾性膜)によってケーキを物理的に絞り上げることで、通常の圧力では到達できない低含水率を実現します。
含水率が1%下がるだけで、東京から1,950キロメートルを輸送する重量が大幅に減少し、それが直接的な収益の改善につながります。
さらに、超微粒子の漏れを防ぐ「ろ布」の選定も重要です。
粒子径・粘度・pHに応じた素材と織り方の最適な組み合わせは、実際のスラリーサンプルを使った実測なしには決定できません。
マキノでは愛知県常滑市の本社ラボにて、実際のスラリーサンプルを用いたろ過テストを実施し、最適なろ布と圧力条件を数値で特定します。
3つの壁を同時に越えるための一品一様設計
耐腐食・揺動対応・超微粒泥への高圧設計——これら3つの要件を同時に満たすフィルタープレスは、標準品では対応できません。
南鳥島プロジェクトの船上脱水工程は、まさに一品一様のオーダーメイド設計が求められる案件といえます。
マキノは1932年の創業以来、多種多様なスラリーに向き合い、6,000例以上の納入実績を積み重ねてきました。
「このスラリーにはこの圧力、このろ布、このサイクル設計が最適である」という判断を、カタログスペックではなく実データで示せることが、マキノの本質的な強みです。
量産フェーズに求められるのは、実証試験とは次元の異なる耐久性・安定性・コスト競争力に他なりません。
その段階でこそ、90年以上にわたって難ろ過性スラリーと向き合ってきた専業メーカーとしての実力が問われると考えています。
FAQ|よくある質問
Q:揺動環境下での稼働実績はありますか?
船上での運用実績については、ご要件をヒアリングしたうえで技術的な検討を進めます。
フィルタープレスは油圧による強力な締め付けで密閉空間を形成する構造のため、揺動下での機械的安定性が保たれやすい特性があります。
揺動環境を想定した油圧システム設計・シール材選定・エア抜き機構・設置角度への対応についても、具体的なご要件をお知らせいただければ対応可能です。
Q:レアアース泥のサンプルがなくてもラボテストは可能ですか?
類似する性状(粒子径・粘度・pH・固形分濃度)のスラリーサンプルでも、参考となるテストデータを取得することは可能です。
実際のレアアース泥サンプルが入手できた段階での正式なテストに向けて、事前の技術的な検討を進めることもできます。
まずは現在の処理条件と目標スペックをお聞かせください。
Q:船上設置に対応したコンパクト・軽量設計は可能ですか?
可能です。船上設置では重量・設置面積・重心位置が重要な制約条件になります。
マキノは一品一様の設計を基本としており、設置スペース・重量制限・稼働条件をヒアリングしたうえで最適な機種・サイズをご提案します。
樹脂製ろ過板の採用は軽量化にも貢献します。
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