半導体メモリの微細化が進むほど、製造工程で生まれる廃液の処理難度も上がります。

CMP(半導体の表面を化学的・機械的に研磨する工程)で発生するスラリー(液体に微細な固体が混じったドロドロの液体)は、ナノメートルレベルの研磨粒子を高濃度で含む高研磨性廃液です。
一般的な脱水機では粒子の微細さゆえに固液分離が成立しないケースがあります。

この記事では、CMPスラリーの固液分離に求められる技術要件と、フィルタープレスが選ばれる理由を解説します。

CMPスラリーとはどんな廃液か 一般的な産業排水との違い

CMP工程では、シリコンウェーハや銅・タングステンなどの金属配線層の表面を平坦化するために、研磨液(CMPスラリー)を使います。
研磨液には砥粒(シリカ・アルミナ・セリアなどのナノ粒子)が分散しており、化学的なエッチング作用と物理的な研磨作用を組み合わせて表面を削ります。

使用後のCMPスラリーには、砥粒に加えて削り取られたシリコン・金属酸化物・有機系添加物が混在します。
砥粒の粒径は20〜300nm(ナノメートル、1nmは100万分の1mm)程度で、一般的な産業排水の固体粒子(数μm〜数十μm)と比べて桁違いに細かく、この微細さが固液分離の難しさの根本です。

また、CMPスラリーには添加剤としてpH調整剤・酸化剤・分散剤が含まれており、廃液のpHや化学組成は使用する研磨材の種類によって大きく異なります。
銅配線研磨用スラリーは酸性(pH3〜5程度)、シリカ研磨用は弱アルカリ性(pH9〜11程度)が多く、処理設備の素材選定にも影響します。

なぜ一般的な脱水機ではCMPスラリーを処理しにくいのか

CMPスラリーの固液分離が難しい理由は、粒径の細かさにあります。

遠心分離機は遠心力によって固体粒子を外側に集める仕組みですが、粒径が100nm以下の超微粒子では粒子が小さすぎて十分な遠心力がかかりません。
高速回転させても分離しきれず、ろ液側に粒子が残ります。

ベルトプレスはベルト(ろ布に相当)の目開きがCMPスラリーの粒径より大きいため、粒子がベルトをそのまま通過してしまいます。
目開きを細かくしすぎると今度は圧力をかけても液体が通過せず、脱水が成立しません。

フィルタープレスの場合も、目開きだけでCMPスラリーを処理しようとすると同様の課題が生じます。
ただし、フィルタープレスには「ケーキ層(ろ過が進むにつれてろ布の表面に積み重なる固体の層)がフィルターとして機能する」という特性があります。
圧入初期に形成されたケーキ層が次第に密度を増すことで、ナノ粒子に対しても高い捕集率を発揮できるようになります。
ケーキ層の圧搾を高圧で行うことで、超微粒子スラリーでも固液分離が成立します。

フィルタープレスがCMPスラリーに対応できる技術的理由

フィルタープレスによるCMPスラリーの固液分離には、いくつかの技術的な前提条件があります。

第一は前処理による凝集です。
ナノ粒子は単独では粒径が小さすぎてケーキ層の形成が遅く、ろ液側への通過が生じやすいです。
凝集剤(フロキュラント)を加えてナノ粒子を凝集させ、粒径を大きくすることで、ケーキ層の形成速度と捕集率が向上します。
CMPスラリーの種類(砥粒の素材・pH・添加剤の種類)によって有効な凝集剤が異なるため、事前のラボテストが必要です。

第二はろ布の適切な選定です。
CMPスラリーは研磨粒子を含む高研磨性の液体であるため、ろ布の素材がナノ粒子の研磨作用に対して耐久性を持つことが重要です。
また、スラリーのpHに対応できる耐薬品性も求められます。
酸性スラリーにはポリプロピレン(PP)系、アルカリ性スラリーにも適合する素材を選定します。

第三は大気圧の約15倍に相当する圧力(1.5MPa)を活用した高圧圧搾です。
凝集後の粒子をしっかり圧搾することで含水率(分離後の固形分に残る水分の割合)を下げ、廃棄物重量を削減します。
ケーキの含水率を下げることは産廃処理費の削減だけでなく、廃液中の有価金属回収プロセスの効率化にも貢献します。

CMPスラリー処理でフィルタープレスを導入した場合の効果

半導体製造において廃液処理コストは見落とされやすいコスト項目ですが、製造規模が大きくなるほどその額は無視できません。

CMPスラリーの固液分離が不十分な場合、ろ液(ろ過後に排出される液体)の排水基準オーバーや廃液量の増大が起きます。
排水基準を超えると行政対応コストが発生し、廃液量が多ければ廃液処理の外部委託費が増えます。
フィルタープレスによって固液分離の精度を上げることで、排水品質の安定化と廃液処理コストの削減が同時に実現できます。

また、CMPスラリーには希少金属(タングステン・コバルト・銅など)が含まれるケースがあります。
高精度な固液分離によって固形分を回収し、金属再資源化に活用することも、廃棄物処理コストの削減と資源有効利用の両面で経営上の意味があります。

半導体製造の分野では、製造量の増加とともに廃液量も増えます。
膜・フィルター市場は2030年までに2023年比で25%以上の成長が見込まれており(富士経済調べ)、固液分離への需要は先端産業を中心に拡大していきます。

マキノの設計思想と先端産業への対応

マキノは1932年創業、納入実績6,000例以上の固液分離専門メーカーとして、民間製造業の多種多様なスラリーに対してフィルタープレスを一品一様(スラリーの性状に合わせた個別設計)で提供してきました。

半導体・電子材料分野のCMPスラリーのような先端産業の固液分離ニーズに対しても、スラリーサンプルを受け入れてラボテストを実施し、凝集条件・ろ布選定・圧力設定・サイクル設計をセットで確認した上で最適なシステムを提案します。

処理するスラリーの粒径が特殊であればあるほど、既製品の組み合わせではなく、スラリー性状を起点にした設計が必要になります。
「このスラリーはフィルタープレスで処理できるのか」という問いに対して、ラボテストの数字をもとに答えを出すことがマキノのアプローチです。

まとめ

CMPスラリーはナノレベルの研磨粒子を高濃度で含む高研磨性廃液であり、一般的な脱水機での固液分離が困難な特殊なスラリーです。
フィルタープレスは、凝集前処理との組み合わせとケーキ層の形成を活用することで、超微粒子スラリーでも高い捕集率と含水率低減を実現できます。

排水品質の安定・廃液処理コスト削減・有価金属の回収という3つの効果が、半導体製造現場におけるフィルタープレスの価値です。
スラリーの化学的性状とpHに適したろ布・圧力設定をセットで設計することで、先端産業特有の要求にも対応できます。

FAQ|よくある質問

Q:CMPスラリーの固液分離にかかるコストはどれくらいですか


スラリーの量・性状・必要な処理精度によって異なります。
現状、外部委託で廃液処理を行っている場合は、フィルタープレスによる自社処理に切り替えることで委託費削減と廃棄物重量削減の両面でコスト改善が見込めます。
具体的な削減額は現場の廃液量と現行コストをもとに試算しますので、まず現状数値をお聞かせください。

Q:ナノ粒子を含むCMPスラリーでも排水基準を満たせますか


凝集前処理との組み合わせにより、ろ液の浮遊固形物(SS)濃度を排水基準以下に抑えることが可能です。
ただし、砥粒の種類・pH・添加剤の組成によって必要な凝集条件が異なるため、スラリーサンプルを使ったラボテストで排水品質を事前に確認することを強くおすすめします。

Q:CMPスラリーの研磨粒子はフィルタープレスやろ布を摩耗させませんか


CMPスラリーに含まれる砥粒(シリカ・アルミナ・セリア)は研磨性が高いため、接触する部品の摩耗リスクがあります。
ろ布は耐摩耗性の高い素材を選定し、スラリーに接触するポンプはダイヤフラム式(非接触構造)を採用することで摩耗リスクを大幅に軽減できます。
マキノではスラリーの研磨性を考慮した素材・機器の選定を設計の一部として行います。

設備更新の前に一度だけご相談を

CMPスラリーの固液分離は、スラリー性状の個別確認なしに標準仕様で対応できる課題ではありません。
「まずラボテストで可能性を確認したい」という段階からのご相談を歓迎します。

スラリーサンプルをマキノにお送りいただければ、粒径・粘度・固形分濃度・pH・化学組成を確認した上で、フィルタープレスで対応できる処理条件と達成できる排水品質をご提案します。
先端産業の固液分離ニーズに、1932年創業の設計知見で応えます。

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