ある化学プラントの設備担当者が、導入から半年も経たないうちに頭を抱えていました。
新しく設置した脱水装置がサイクルのたびに目詰まりを起こし、ろ布の交換コストが当初見積もりの3倍近くに膨らんでいたのです。
装置そのものに欠陥があったわけではありません。問題は「水処理向けに設計された汎用機を、化学プラントのスラリーにそのまま使った」ことにありました。

化学プラントのスラリーが「水処理用」機器では対応しきれない理由

化学プラントで発生するスラリーと、下水処理や浄水場で扱われるスラリーは、見た目は似ていても性質が根本的に異なります。

水処理スラリーの粘度はおおむね低く、腐食性もほとんどありません。温度も常温に近い場合が多く、装置への負荷が比較的一定です。
一方、化学プラントのスラリーは高粘度であることが多く、強酸・強アルカリ・有機溶剤を含む腐食性流体や、60〜80℃を超える高温状態で処理が必要なケースもあります。

こうした条件の違いを無視して汎用機を使い続けると、3つの深刻なトラブルが繰り返し発生します。

高粘性スラリーが引き起こす3つのトラブル

ろ布の早期目詰まり

まず起きるのが、ろ布の早期目詰まりです。
高粘性スラリーは通気抵抗が高く、ろ布の目に粒子が深く入り込みます。洗浄しても詰まりが取りきれず、ろ過速度が回復しないまま交換サイクルが短くなっていきます。

材質の腐食

次に、材質の腐食です。
酸性・アルカリ性スラリーに対して、フレームや配管、シール材が対応していなければ、接液部分から劣化が進みます。金属フレームであれば錆が発生し、ゴム系シールであれば膨潤や溶出が起こります。

圧入不良

3つ目が、圧入不良です。
粘度が高いほどスラリーをフィルタープレス内部へ送り込む際の抵抗が増します。供給ポンプの圧力が不足すると、ケーキ(脱水後の固形分)が均一に形成されず、ろ過効率が大きく落ちます。

これら3つのトラブルは、装置を「水処理向け仕様のまま化学プラントへ持ち込む」ことで起きます。逆に言えば、スラリーの性質に合わせた仕様設計によって、いずれも防ぐことができます。

耐薬品性ろ布・圧力設計・材質選定の判断基準

ろ布素材の選び方

化学プラント向け仕様で最初に決めるべきは、ろ布(液体だけを通して固体を堰き止める特殊なフィルター)の素材です。

ポリプロピレン(PP)製ろ布は、酸・アルカリの双方に強く、化学プラントで最も採用頻度が高い素材です。ただし高温スラリーでは耐熱性に限界があるため、100℃前後の環境ではポリエステル系やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製への切り替えが必要になります。

ろ布の「目開き(メッシュ)」も重要です。高粘性スラリーは粒径が微細なものが多く、目が粗いろ布では固形分がろ液側に抜けてしまいます。一方、目が細かすぎると通液抵抗が増して処理量が落ちます。スラリーの粒度分布と目標ろ液清澄度のバランスを見ながら選定する必要があります。

圧力設計と材質選定

次に圧力設計です。
高粘性スラリーの場合、低圧から始めてケーキを段階的に形成させ、後半に向けて圧搾圧力を高めるアプローチが有効なケースがあります。マキノのフィルタープレスは最大1.5MPa(大気圧の約15倍に相当する圧力)の高圧圧搾に対応していますが、「常に最大圧力が正解ではない」という設計思想のもと、スラリーの性質に合わせた圧力プロファイルを組みます。

材質選定では、フレーム・配管・シール材のすべてが処理液に対して耐性を持つ必要があります。酸性環境にはPP製フレームやライニング処理、アルカリ性にはステンレスとEPDMゴムの組み合わせ、溶剤系にはPTFEライニングといった具合に、液性ごとに最適解が変わります。

「どの素材が正解か」は、スラリーのpH・溶媒種・温度・濃度の4つを確認しなければ決まりません。

一品一様設計で化学プラントの仕様選定をどう進めるか

マキノでは、装置の仕様選定をカタログスペックから始めません。
スラリーサンプルを受け取り、ラボでろ過試験を行うところから設計が始まります。

試験では、粘度・粒径・pH・温度・成分を計測し、複数のろ布と圧力条件を組み合わせてケーキの含水率(分離後の固形分に残る水分の割合)・ろ過速度・ろ液清澄度を確認します。この試験結果が、ろ布選定・圧力設計・サイクル時間・機種選択の根拠になります。

創業1932年以来、マキノの納入実績は6,000例を超えます。化学プラントへの納入事例も多く、同種のスラリーに対して「以前どの仕様で解決したか」という知見が社内に蓄積されています。

機種の選定と導入後の運用

機種の選定については、圧搾式で含水率を最重視する用途にはMDFWシリーズ、処理量を優先する連続処理にはCAFシリーズ、高圧圧搾と空気乾燥の組み合わせが有効なケースにはWAP型が候補に挙がります。いずれも最終的にはラボ試験の結果と現場条件を照らし合わせて決定します。

「機種を先に決めて、後でスラリーに合わせる」ではなく、「スラリーの性質を先に把握して、機種・仕様を後から決める」流れが、化学プラント向け仕様選定の正しい順序です。

導入後の運用面では、ろ布のメンテナンスサイクルと洗浄方法を設計段階から織り込みます。適切なメンテナンスを続けることで、装置の耐用年数は20〜30年に達することも珍しくありません。初期投資が多少かさんでも、産廃処理コストの削減や稼働率の安定を考えれば、投資回収は1〜3年で完了するケースが多く見られます。

仕様選定を始める前に確認しておきたいこと

メーカーへ問い合わせる前に、処理対象スラリーについて以下の情報を整理しておくと、仕様選定がスムーズに進みます。

・1日あたりの処理量(スラリー量または固形分量)
・スラリーのpHと主要成分(酸・アルカリ・有機溶剤の有無)
・スラリーの処理温度
・目標とする脱水後の含水率またはケーキの硬さ
・既存装置でのトラブル内容(あれば)

これらが揃っていれば、ラボ試験の設計精度が上がり、より早く最適な仕様の候補を絞り込めます。
データが部分的にしか揃っていない段階でも、まずサンプルをご送付いただくことで試験の中で必要情報を補うことが可能です。

まとめ

化学プラントの高粘性・腐食性スラリーに汎用フィルタープレスをそのまま適用すると、目詰まり・腐食・圧入不良の3つのトラブルが繰り返し発生します。

解決の入口はスラリーの性質を正確に把握することです。pH・粘度・温度・成分を確認し、ろ布素材・圧力設計・接液部材質のすべてをスラリーに合わせて選定することで、安定したろ過性能と長期稼働が実現します。

マキノではスラリーサンプルを受け取り、ラボ試験の結果に基づいた一品一様設計で仕様を提案しています。「どんな装置が合うかまだわからない」という段階でも、サンプルをお送りいただくことから始めることができます。

化学プラントの高粘性スラリー脱水でお困りでしたら、まずスラリーサンプルをお送りください。
マキノのラボ試験でろ布・圧力・機種の最適仕様を確認します。

ご質問・ご相談など
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FAQ|よくある質問

Q:高粘性・耐薬品性対応の仕様は、汎用品と比べてどのくらいコストが変わりますか?


ろ布素材の変更(PPからPTFEへの切り替えなど)や接液部のライニング処理によって、初期費用は汎用仕様と比べて1.5〜2倍程度になることがあります。
ただし、ろ布交換頻度の低下・装置トラブルの減少・産廃処理コストの削減を合算すると、多くのケースで数年以内に差額を回収できます。
具体的な数字はスラリーの性質と処理量によって大きく変わるため、ラボ試験の結果をもとに試算することをお勧めします。

Q:スラリーサンプルを送ると、どのような情報が得られますか?


マキノのラボ試験では、送付いただいたスラリーを使って実際にろ過試験を行います。
得られる情報は、推奨ろ布の素材と目開き・適切な供給圧力とサイクル時間・達成可能な脱水後含水率・ろ液の清澄度・推奨機種の候補、などです。
試験結果はレポートとしてご提供し、仕様選定の判断材料になります。
必要なサンプル量はスラリーの性質によりますが、概ね10リットルからポリタンク1本(20リットル程度)をお預かりできれば試験を進められます。