乳液やクリームの製造ラインを洗浄した後の廃液が、なかなかうまく脱水できていないと感じていませんか。
油分が混じった液体(含油スラリー)は凝集しにくく、圧力をかけてもケーキが軟らかいままになりがちです。その原因の多くは、圧力や機械側ではなく、脱水前の「添加剤選定と凝集設計」にあります。
この記事では、化粧品工場で起きやすい含油排水の分離不良の原因と、添加剤の選び方・前処理設計の考え方を整理します。

化粧品工場の排水はなぜ脱水しにくいのか

化粧品製造では、乳液・クリーム・ファンデーションなどの製品ラインを洗浄するたびに、油分・界面活性剤・増粘剤が混ざった複合廃液が発生します。
これが「含油スラリー」です。液体に微細な固体や油滴が混じったドロドロの状態(スラリー)と考えてください。

含油スラリーが脱水しにくい理由は、油分の性質そのものにあります。
油は水と混じらず、微細な粒子として液中を漂います。この粒子は表面が疎水性(水をはじく性質)のため、通常の凝集剤では粒子同士がくっついて大きな塊を作りにくい状態です。
凝集が不十分なままフィルタープレスにかけても、固形分が細かいままろ布(液体だけを通して固体を堰き止める特殊なフィルター)を詰まらせたり、ケーキ層(ろ過が進むにつれてろ布の表面に積み重なる固体の層)が軟らかくて崩れやすくなったりします。

化粧品廃液特有のもう一つの難しさは、界面活性剤の存在です。
製品に使われる乳化剤・界面活性剤は油と水を安定して混ぜ合わせるために配合されていますが、排水処理の場面ではこの安定性が逆に働きます。油粒子が均一に分散したまま凝集しにくい状態を保つため、処理が困難になります。

圧力を上げても解決しない理由

含油スラリーの分離不良に直面したとき、「もっと圧力をかければ改善するのでは」と考えるのは自然な発想です。しかし、含油スラリーのケーキは圧縮性が高く、圧力を上げると粒子が押しつぶされてろ布の目詰まりがひどくなるケースがあります。

マキノの現場経験では、含油スラリーに対して圧力を過度に上げると、かえってケーキが緻密になりすぎてろ液の抜けが悪くなる事例が確認されています。
フィルタープレスの性能を引き出す大前提は「凝集させてから脱水する」こと。脱水機にかける前の前処理(凝集・フロック形成)の設計が、含水率(分離後の固形分に残る水分の割合)を大きく左右します。

一般的なフィルタープレスの脱水後含水率は50〜70%です。遠心分離機の70〜85%、ベルトプレスの85%以上と比べると優位性がありますが、その性能を発揮するためには前処理条件との組み合わせが不可欠です。
「脱水機を替えれば解決する」ではなく、「前処理を整えた上で脱水機を最適化する」という順序で考えることが重要です。

含油スラリーに効く添加剤の選び方

凝集剤には大きく「無機凝集剤」と「高分子凝集剤」の2種類があります。含油スラリーではこの2つを組み合わせて使うのが基本です。

無機凝集剤(PAC・硫酸アルミ等)の役割

ポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸アルミニウムといった無機凝集剤は、液中に溶け出した金属イオンが油粒子の表面電荷を中和し、粒子同士が反発しにくい状態を作ります。
化粧品廃液のように界面活性剤で安定分散している系では、まず無機凝集剤で電荷を中和することが第一ステップです。PACは即効性があり、pHの調整幅も比較的広い点が現場では扱いやすいとされています。

高分子凝集剤の役割

無機凝集剤で電荷を中和した後、高分子凝集剤(アニオン系・カチオン系・ノニオン系)を加えることで、細かい粒子を架橋してフロック(大きな塊)に育てます。
フロックが大きくなるほどろ布上でケーキ層が形成しやすく、ろ液の抜けが良くなります。含油スラリーではカチオン系またはノニオン系の高分子凝集剤が有効なケースが多いですが、廃液の組成によって適切な種類と添加量が変わります。

添加剤選定で見るべきポイント

化粧品廃液の組成は製品ラインによって大きく変わります。乳液ラインと口紅ラインでは油分の種類も濃度も異なり、同じ凝集剤が通用しないことも珍しくありません。
選定の手がかりになるのは、廃液のpH・油分濃度・界面活性剤の種類・COD(化学的酸素要求量)の値です。これらを計測した上でラボテストを行い、凝集剤の種類・添加量・pH調整値を決めることが、現場での安定運用につながります。
マキノではスラリーのサンプルをお預かりしてラボ試験を行っています。概ね10リットルからポリタンク1本(20リットル程度)あれば試験を進められます。

前処理を整えた後、どの機種を選ぶか

凝集設計が決まったら、脱水機の選定に入ります。化粧品排水のような含油スラリーには、いくつかの選択肢があります。

MSASシリーズ(小規模・精密ろ過)

廃液量が少なく、高い分離精度が求められる工場に向いています。手動操作タイプで、研究開発ラインや試作ラインの廃液処理にも対応できます。
化粧品メーカーでは製品ロットごとに廃液組成が変わるケースも多く、処理量・組成変動への柔軟な対応が求められます。MSASシリーズはその柔軟性を持った精密ろ過機です。

MDFシリーズ・MDFWシリーズ(全自動・含水率重視)

廃液量が多く、処理を自動化したい工場にはMDFシリーズ(全自動タイプ)が適しています。含水率を最優先にしたい場合はMDFWシリーズ(圧搾式)も選択肢に入ります。
圧搾式では、ろ過が進んだ後にさらに圧力を加えてケーキ内の水分を押し出します。含油スラリーでも凝集が十分なら、圧搾によって含水率をさらに下げることが可能です。含水率が5%下がると、年間数百トン単位の廃棄物重量削減につながり、産廃処理費(約2万円/t換算)で年間数百万円の削減効果になります。

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実際の現場でどう進めるか

化粧品工場での含油排水処理の改善を、実際の手順に沿って説明します。

まず廃液のサンプリングから始めます。乳液ラインと洗剤洗浄廃液など複数の排水が合流している場合は、合流後の廃液と各単独廃液の両方を採取します。廃液組成が明確になるほど、凝集剤の選定精度が上がります。

次にラボテストで最適な凝集剤と添加量を確認します。PAC添加後のフロックの形成具合、高分子凝集剤の種類別の沈降速度、pH別のろ過性能などを比較します。このステップを省いて現場導入してしまうと、「凝集剤を入れたが効果が出ない」「ろ布がすぐ詰まる」という状態に陥りがちです。

ラボテスト結果をもとに実機の条件を設定します。凝集剤の添加ポイント・撹拌条件・pH管理方法・圧力設定などを決め、試運転で含水率と処理サイクルを確認します。
含水率が目標値に近づいたら、定期的なろ布点検とケーキの剥離状態の確認を組み込んで、安定稼働体制を整えます。

「凝集→脱水→ケーキ管理」の流れを一気通貫で設計することで、現場の試行錯誤を最小限に抑えられます。納入実績6,000例以上を持つマキノでは、化粧品・香料・精密化学など含油系の廃液処理の事例も蓄積しています。

まとめ

化粧品製造の含油排水で分離効率が上がらない原因は、脱水機の能力ではなく「凝集設計」にあることがほとんどです。界面活性剤で安定分散した油粒子は通常の処理では凝集しにくく、前処理の段階でPACなどの無機凝集剤による電荷中和と高分子凝集剤によるフロック形成を組み合わせることが不可欠です。
圧力をただ上げても含水率は改善しません。凝集が整って初めて、フィルタープレスの脱水能力が発揮されます。

含水率が5%改善するだけで年間の産廃処理費が数百万円単位で変わります。廃液量と産廃単価によっては、設備投資の回収が1〜3年で完了するケースも少なくありません。
「まずラボテストで廃液の性状を把握する」。この一手間が、現場の安定稼働と長期的なコスト削減に直結します。

マキノは含油スラリーを含む多様なスラリーのサンプルテストに対応しています。廃液の組成・処理量・目標含水率を整理した上でご相談いただければ、凝集条件から機種選定まで一緒に検討できます。

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FAQ|よくある質問

Q:含油排水の凝集処理にかかるコストはどのくらいですか?


PAC(ポリ塩化アルミニウム)などの無機凝集剤は1kgあたり数十円〜100円程度、高分子凝集剤は数百円〜1,000円程度が目安です。
添加量は廃液1トンあたり数十gから数百g程度になるケースが多く、薬剤コストは月数万円の規模に収まることが一般的です。
一方、含水率を5%改善するだけで年間産廃処理費が数百万円削減できる計算になるため、薬剤コストとの差し引きでの効果は大きくなります。

Q:化粧品廃液のラボテストにはどのくらいの時間とサンプル量が必要ですか?


サンプルは概ね10リットルからポリタンク1本(20リットル程度)あれば試験を進めることができます。
試験項目によりますが、凝集条件の選定から含水率の測定まで通常1〜2週間程度が目安です。
廃液の組成情報(pH・油分濃度・COD・使用界面活性剤の種類など)をあらかじめ整理してお伝えいただくと、試験の精度が上がり期間を短縮できます。

Q:製品ラインが変わるたびに廃液の組成が変わります。毎回凝集剤を変える必要がありますか?


製品ラインごとに廃液の油種・界面活性剤の種類が大きく変わる場合は、凝集剤の種類や添加量を調整する必要が出てきます。
ただし、廃液を合流タンクで混合・均質化してから処理するフローを組むと、組成変動を吸収しやすくなります。
基本の凝集剤を決めつつ、pHと添加量で調整できる幅を設けておく設計が、複数ラインを持つ化粧品工場では有効です。各工場の実態に合わせた設計はラボテスト結果をもとに相談できます。

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