ろ布の交換サイクルが想定より早い、ケーキの抜けが不均一で処理品質が安定しない、という悩みを現場で聞くことは少なくありません。
こうした問題の原因の多くが、運転開始直後のポンプ圧力の上げ方にあります。
この記事ではスローアップ制御(供給ポンプの圧力を段階的に上昇させる方式)がフィルタープレスのろ布寿命と処理品質にどう影響するかを、運転サイクルに沿って具体的に解説します。

フィルタープレスの運転サイクルとスローアップの位置づけ

フィルタープレスは「供給(スラリーをろ過板の間に送り込む)→ろ過→圧搾→ブロー(残液の押し出し)→開枠→ケーキ排出」というサイクルで動きます。
このサイクルの中で最もろ布に負荷がかかるのが、最初の供給工程です。
供給を始めた段階では、ろ過板とろ布(液体だけを通して固体を堰き止める特殊なフィルター)の間にまだスラリー(液体に固体が混じったドロドロの液体)が充填されていません。空の状態のろ布に高圧を一気にかけると、布への衝撃が直接かかり変形・破損につながりやすくなります。

スローアップ制御とはこの供給工程の立ち上がりに着目した制御方式で、ポンプの吐出圧力をいきなり設定最大値まで上げず、数分かけて段階的に引き上げます。
一般的な圧力プロファイルは、開始時の0.3〜0.5MPa(メガパスカル)程度から始まり、ろ布全体にスラリーが充填されていくにつれて圧力を上げ、最終的に設定圧力(マキノの高圧圧搾機では最大1.5MPa)まで到達させます。
この一連の圧力制御が「ろ布を守る」と同時に、「均一なケーキ層を形成する」という2つの効果をもたらします。

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スローアップなしで何が起きるか

スローアップ制御を省略してポンプを最大圧力で立ち上げると、現場では主に3つの問題が起きやすくなります。

ろ布の早期損傷と交換コストの増加

充填前の空の状態で高圧をかけると、ろ布の繊維が伸び・変形・部分的な破断を起こしやすくなります。
軽度の損傷でも繰り返すことで寿命が大幅に短縮します。適切な運転条件下では数千〜1万回以上の使用が見込めるろ布が、急激な圧力立ち上げを続けることで数百回程度での交換を余儀なくされるケースもあります。
交換費用と交換に伴う停止時間を合算すると、ランニングコストへの影響は想定以上に大きくなります。

ケーキ層の不均一形成

スラリーが板内に均一に充填される前に高圧をかけると、圧力がかかりやすい箇所と抜けにくい箇所でスラリーの流れ方に差が生じます。
その結果、ろ布の表面に積み重なるケーキ層(固体の層)の厚みが不均一になりやすくなります。
ケーキが薄い部分は局所的にろ布への圧力集中が起きてさらに損傷を早め、ケーキが厚い部分は液体の抜けが悪くなって含水率(分離後の固形分に残る水分の割合)が上がる悪循環につながります。

ポンプへの過負荷

急激な圧力上昇は供給ポンプにも負荷をかけます。
スラリーが充填されていない抵抗の低い状態から一気に圧力を上げると、ポンプ内部の弁・シール部品に衝撃的な負荷が繰り返しかかり、メンテナンス頻度の増加につながることがあります。
ろ布とポンプの両方の寿命を保護するという意味でも、スローアップは二重の効果を持ちます。

スローアップ制御で得られる定量的な効果

スローアップ制御の導入によるろ布寿命への影響は、運転条件や扱うスラリーの性状によって差がありますが、適切な圧力プロファイルへの切り替えによってろ布の交換サイクルを延ばせるケースは多くあります。
ろ布の交換コストが年間30〜50万円規模の工場であれば、スローアップ制御の設定を適正化するだけで消耗品費の削減につながります。
また均一なケーキ層が形成されることで、ろ過時間の短縮・含水率の安定化・ケーキ排出の改善という処理品質面での効果も付随して得られます。

圧力の上げ方は機械的に決まるものではなく、スラリーの粒径・粘度・固形物濃度によって最適な立ち上がり速度と最終圧力が変わります。
一般的な目安として、供給開始から設定圧力への到達まで3〜10分程度の時間をかけるケースが多くなっています。
粒径が細かく難ろ過性のスラリーほど立ち上がりを緩やかにする必要があり、逆に粒径が大きく沈降性の高いスラリーは比較的速い立ち上がりでも対応できます。

MDP型ポンプとスローアップ制御の相性

スローアップ制御の効果を安定して引き出すには、ポンプの吐出圧力が安定していることが前提条件になります。
圧力が制御信号に対して遅れて追従したり、脈動(圧力の波打ち)が大きかったりすると、段階的に上げているつもりでもろ布への衝撃が発生します。

マキノのMDP型ポンプはピストンとスラリーが直接接触しない非接触構造を採用しており、吐出圧力の安定性が高くなっています。
インバータ制御との組み合わせで圧力の立ち上がりをきめ細かく調整でき、スローアップ制御との相性が特に良い設計です。
脈動が小さいため、ろ布への微細な繰り返し衝撃も抑えられます。長期間の使用でろ布の劣化具合に差として現れるポイントです。

現場で今すぐ確認できる圧力プロファイルのチェックポイント

スローアップ制御の設定が適切かどうかは、既存設備の運転記録から確認できることが多くあります。
以下のポイントを現在の運転状況と照らし合わせてください。

まず供給開始直後の圧力挙動です。運転を開始してから1〜2分以内に設定最大圧力に到達している場合は、立ち上がりが急すぎる可能性があります。
次にろ布の損傷パターンです。交換したろ布の損傷箇所が中央部または送液口付近に集中している場合、初期圧力による局所負荷が原因の可能性が高くなっています。
そしてケーキ排出の均一性です。同じ運転条件でもバッチによってケーキの厚みにばらつきがある場合、充填工程での圧力管理が影響している可能性があります。

これらに心当たりがある場合は、まず圧力立ち上げの時間設定を現在より長くする調整から試してみてください。
インバータ制御が装備されている設備であれば、圧力プロファイルの変更はソフトウェアの設定変更だけで対応できることが多く、設備改造の費用はかかりません。
一方でポンプ自体の脈動や圧力追従性に問題がある場合は、ポンプの点検・整備か機種の見直しが必要になります。

まとめ

ろ布の早期損傷やケーキ品質の不安定さは、多くの場合フィルタープレスの運転開始時の供給圧力の上げ方に起因しています。
スローアップ制御によって0.3〜0.5MPa程度の低圧から段階的に最大圧力まで引き上げることで、ろ布への初期衝撃を最小化し均一なケーキ層を形成できます。
ろ布の交換サイクルが延び、消耗品コストと停止時間の両方を抑えられる効果は、設備投資を伴わない運転改善の中では費用対効果が高い取り組みです。

MDP型ポンプのように吐出圧力が安定した設備であれば、スローアップ制御の精度がさらに高まり長期的なろ布寿命の改善効果が大きくなります。
現在の設備でスローアップの設定が適切かどうかは、圧力記録とろ布の損傷パターンを確認するだけで判断の端緒をつかめます。
「ろ布の交換頻度が想定より高い」「ケーキの品質が安定しない」といった課題をお持ちの場合は、まず運転設定の見直しからご相談ください。

ご質問・ご相談など
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FAQ|よくある質問

Q:スローアップ制御はどんな設備でも後付けで設定できますか


インバータ制御付きのポンプが設置されている設備であれば、圧力プロファイルの変更はソフトウェアの設定変更で対応できるケースが多く、追加の設備投資は不要なことがほとんどです。
一方でインバータが装備されておらず定速ポンプのみの場合は、インバータの後付けが必要になります。
既存設備のポンプ仕様・制御盤の構成を確認した上で対応可否を判断しますので、まず型番や設備図をお知らせいただければご案内できます。

Q:スローアップの圧力立ち上げ時間はどのくらいが適切ですか


処理するスラリーの性状(粒径・粘度・固形物濃度)によって最適な時間は変わります。
目安として、供給開始から設定最大圧力への到達まで3〜10分程度を設けるケースが多いですが、難ろ過性のスラリー(粒径が細かく粘性が高い)ほど立ち上げを緩やかにする必要があります。
現在の圧力記録とろ布の損傷状況を照らし合わせることで、立ち上げ時間の調整方向を判断できます。ご不明な場合はスラリーの性状データとともにご相談ください。

Q:スローアップを適切に設定しているのにろ布の損傷が早い場合、他に原因はありますか


圧力立ち上げの設定が適切でもろ布の早期損傷が続く場合は、ろ布の材質・目開きの選定ミスか、ろ布の洗浄不足による目詰まりの進行が原因として多く挙げられます。
スラリーの性状に対してろ布の目開きが合っていないと、固体が繊維の内部に食い込んで詰まりが固定化し、局所的に圧力が集中して破損しやすくなります。
ろ布の交換時に損傷箇所と損傷パターンを記録しておくと原因の特定がしやすくなります。マキノでは交換時のろ布診断もサポートしていますので、お気軽にご相談ください。

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