「10年以上ノントラブルで動いてきた設備なのに、最近どこか調子が悪い」そういう現場の話を聞くことがあります。
ろ布を替えても、圧力を見直しても改善しない。その場合、ろ板(スラリーをチャンバー内に保持してろ過を行う板状部品)の歪みが静かに進行していることがあります。
この記事では、ろ板の歪みが生じるメカニズム・現場で気づくためのサイン・精度を取り戻すための改修の判断と手順を整理します。

ろ板の歪みが起きるメカニズム

フィルタープレスのろ板は、運転のたびに圧入圧力・圧搾圧力・温度変化を繰り返し受けます。
適切な設計と材質であれば長期にわたって形状を保ちますが、以下の条件が重なると歪みが蓄積していきます。

過圧による変形

スラリー(液体に微細な固体が混じったドロドロの液体)の性状が変わり、必要以上の圧力がかかり続けた場合、ろ板に設計外の荷重が加わります。
マキノが推奨する上限圧力は1.5MPa(大気圧の約15倍に相当する圧力)ですが、リリーフ弁の設定ミスや急激な圧力上昇が繰り返されると、ろ板が少しずつ変形していきます。
この変形は1回の運転では検知できないほどわずかであるため、点検時に見過ごされやすいです。

熱変形と腐食

高温スラリーを長期間処理している設備では、熱応力による変形が起きることがあります。
また、腐食性の高いスラリーを扱う現場ではろ板の材質が化学的に侵食され、表面が粗くなったり、板厚が部分的に薄くなったりします。
腐食による変形はシール面の密着性を低下させ、スラリー漏れの直接的な原因になります。

経年劣化によるクリープ変形

高分子材料(ポリプロピレン等)製のろ板では、長期間にわたって荷重がかかり続けることで、材料が少しずつ変形するクリープ現象が起きます。
10年以上稼働してきた設備では、肉眼では分かりにくい程度でも累積変形量が許容範囲を超えていることがあります。
クリープ変形が進んだろ板は元の形状には戻らないため、修理ではなく交換の判断が必要になります。

現場でろ板の歪みを発見するサイン

ろ板の歪みは単体で見ても気づきにくいです。
運転中・運転後の以下の変化が、歪みを疑うサインになります。

最も分かりやすいのがスラリー・ろ液の漏れです。
ろ板のシール面(板同士が密着する部分)に歪みがあると、高圧運転中にスラリーがにじみ出るか、ろ液に固形分が混入します。
ろ布を交換してもにじみが止まらない場合は、シール面の変形を疑います。

次に含水率(分離後の固形分に残る水分の割合)の悪化です。
シール面の密着が不完全になると、圧搾工程で均一な圧力がかからなくなります。
特定のろ板周辺のケーキ層(ろ過が進むにつれてろ布の表面に積み重なる固体の層)だけ含水率が高い場合、そのろ板の変形を確認します。

また、目視点検で確認できる変形として、板面の反り・シール面の段差・フレームとの接触面の摩耗痕などがあります。
ろ板を1枚ずつ平面台に置いてガタつきを確認する方法も有効です。
マキノでは納入後のメンテナンス対応の中で、こうした現場での確認手順もサポートしています。

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修理か交換かを分ける判断基準と改修手順

ろ板の歪みが確認された場合、「修理で精度を回復できるか」「交換が必要か」を判断することが次のステップです。
判断を誤ると、修理コストを投じた後に結局交換となる二重投資になりかねません。

修理で対応できるケース

シール面の軽度な傷・段差・摩耗であれば、シール材の補修や表面の研磨・整形によって密着性を回復できることがあります。
フレームとの接触部分の摩耗が軽微で、板本体の形状が許容範囲内に収まっている場合も修理対象です。
修理後は実際に組み込んで試運転を行い、漏れと含水率の改善を数値で確認します。

交換が必要なケース

板面に反り・割れ・クリープ変形が生じており、元の形状に戻せないと判断される場合は交換です。
腐食による板厚の減少が設計値の許容範囲を超えている場合も同様です。
また、歪んだろ板が1枚でも残ると全体のシール性能に影響するため、劣化が進んでいる板は一括で交換することを推奨します。
ろ板の交換は設備全体の買い替えより低コストで実施できるケースが多く、創業1932年・納入実績6,000例以上のマキノでは部分交換の提案にも対応しています。

改修後の再発防止

ろ板の歪みを再発させないためには、原因となった運転条件の見直しが不可欠です。
リリーフ弁の設定値確認・スラリー性状変化への対応・定期点検サイクルの設定を組み合わせることで、次の歪み発生までの期間を延ばせます。
ろ板の状態を定期的に記録しておくと、交換時期を計画的に管理できるようになります。

まとめ

ろ板の歪みは過圧・熱変形・クリープ変形によって少しずつ蓄積し、スラリー漏れや含水率の悪化として現れます。
「ろ布を替えても直らない」「特定のチャンバーだけ性能が悪い」という症状が出たときは、ろ板のシール面と板面の変形を確認するタイミングです。
修理か交換かは板本体の形状と変形の程度で判断し、改修後は運転条件の見直しで再発を防ぎます。
長年稼働してきた設備の精度を取り戻す機会は、設備全体の更新より小さいコストで実現できる場合があります。
現状の設備を診断してから次の手を考えたい場合は、早めにマキノへご相談ください。

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FAQ|よくある質問

Q:ろ板の歪みを放置すると、産廃コストにどう影響しますか?


シール面の歪みで均一な圧搾ができなくなると、含水率(分離後の固形分に残る水分の割合)が上昇します。
含水率が5ポイント上昇すると年間数百トン単位の廃棄物重量増加につながり、産廃処理費(約2万円/t想定)換算で年間数百万円の余分なコストが生じるケースがあります。
スラリー漏れが続くと床面・周辺設備の汚染による追加清掃コストも発生します。

Q:ろ板の交換は設備全体の買い替えよりどれくらい安く済みますか?


設備の構成や交換枚数によって異なりますが、ろ板の部分交換は設備全体の新規導入費用の数分の一で実施できるケースが多くあります。
フレーム・油圧ユニット・電装系が健全であれば、ろ板交換で実質的に脱水性能を回復できます。
どの部品を交換すべきかは現場の状態を確認してから判断するため、まずマキノへ現状をご連絡ください。

Q:ろ板の歪みは何年ごとに点検すればよいですか?


運転条件にもよりますが、年1回の定期点検でシール面と板面の変形を目視確認することを推奨します。
高温・高圧・腐食性スラリーを扱う現場では半年ごとの確認が安全です。
含水率の推移・脱水サイクルの変化・スラリー漏れの有無を記録しておくと、歪みの進行を数値で把握でき、計画的な交換判断につながります。