「耐薬品性が高いと聞いてPPを選んだが、スラリーの温度が高くて半年でろ布がへたってしまった」という声を、現場担当者からよく聞きます。
ろ布の素材選びで失敗する多くの場合、pH・温度・固形分濃度のどれかひとつだけを見て判断しているのが原因です。
この記事では、PP・PET・ナイロン・ポリイミドの4素材を耐薬品性・耐熱性・コストの観点で比較し、スラリーの特性から素材を絞り込む実践的な考え方をお伝えします。

ろ布の素材が変わると何が変わるか

液体だけを通して固体を堰き止める特殊なフィルター(ろ布)は、フィルタープレスの脱水性能を左右する核心部品です。
ろ板と同じ設計で圧力をかけても、ろ布の素材が変わると分離後の固形分に残る水分の割合(含水率)が5〜10%前後変動することがあります。
含水率が5%下がるだけで、産廃処理費(約2万円/t想定)の観点から年間数百万円規模のコスト差につながることも珍しくありません。

素材の選定で見るべき指標は大きく三つです。耐薬品性(酸・アルカリへの耐性)、耐熱温度(連続使用できる上限温度)、機械的強度(摩耗・引張りへの強さ)。この三つをスラリーの性状と照らし合わせることが、ろ布選定の出発点になります。

4素材の特性を比較する

それぞれの素材が得意とする条件と弱点を整理します。どの素材も「万能」ではなく、スラリーの組成によって向き不向きが明確に分かれます。

PP(ポリプロピレン)

PPは汎用性の高さとコストの安さから、廃水処理や一般産業向けのろ布として最も広く使われている素材です。酸・アルカリの両方に対して幅広い耐性を持ち、pH 2〜13程度の広い範囲に対応できます。ただし、連続使用に耐えられる温度は80℃前後が上限で、高温スラリーにはあまり向いていません。また摩耗に対する強さはPETに比べてやや劣るため、固形分濃度が高く粒径の粗いスラリーを長期間処理する環境では、交換サイクルが早まることがあります。

PET(ポリエステル)

PETはPPに比べて機械的強度が高く、摩耗に強いのが特徴です。ろ布表面に積み重なる固体の層(ケーキ層)の剥離負荷が大きい用途や、固形分濃度が高いスラリーの処理で力を発揮します。コストと性能のバランスが良く、汎用素材として使いやすい選択肢です。一方、強アルカリ(pH 13以上)の環境では加水分解が進みやすく、耐久性が急激に落ちます。アルカリ性スラリーを扱う場合は、pHの上限をあらかじめ確認しておく必要があります。

ナイロン(PA)

ナイロンは耐熱性の高さが最大の強みで、120℃前後まで連続使用できます。引張強度も高く、食品・医薬品分野など衛生管理が厳しい環境にも採用実績があります。ただし強酸(pH 3未満)に対する耐性はPPより弱く、酸性スラリーには不向きです。また価格はPPの1.5〜2倍程度になるケースが多いため、高温が必要な用途にしぼって使うのがコスト面でも合理的です。

ポリイミド(PI)

ポリイミドは4素材の中でもっとも過酷な条件に対応できる素材で、200℃以上の連続使用が可能です。耐薬品性も最高クラスで、半導体の研磨工程(CMP)で使われるスラリーや、化学プラントの特殊廃液処理など、他の素材では耐えられない環境で使われます。ただし材料コストはPPの数倍以上になるため、特殊用途以外への採用は費用対効果の検討が必要です。「とにかく高耐熱・高耐薬品性が必要」という明確な理由がある場合に絞って採用すべき素材です。

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素材を絞り込む実践的な考え方

4素材の特性を踏まえたうえで、実際の選定では「pHと温度の組み合わせ」を先に確認するのが最短ルートです。この二軸で絞ると、選択肢がほぼ一つか二つに絞られます。

ステップ1 スラリーの温度を確認する

処理するスラリーの温度が80℃を超えるかどうかが最初の分かれ目です。80℃以下であれば、PPとPETの両方が選択肢に入ります。80〜120℃の範囲であればナイロンが候補になり、120℃を超えるならポリイミドが現実的な選択肢です。温度の上限を見誤ると素材が急速に劣化するため、スラリーの最高到達温度(定常運転時の上限値)で判断してください。

ステップ2 スラリーのpHを確認する

温度条件でPPとPETの両方が候補に残った場合、次はpHで絞り込みます。pH 11以下の中性〜弱アルカリの範囲では、PPもPETも安定して使えます。pH 12以上の強アルカリになるとPETの加水分解リスクが高まるため、PPが有力になります。逆に強酸(pH 3未満)の環境でナイロンを検討している場合は、耐酸性の観点でPPへの切り替えを検討すべきです。

ステップ3 固形分濃度と粒径を確認する

pHと温度だけで素材が決まらない場合、固形分濃度と粒径が次の判断材料です。固形分が多く粒径が粗い「重いスラリー」を長時間処理するなら、摩耗に強いPETが有利です。一方で粒径が細かく軽いスラリーなら、PPで十分なケースが多くなります。摩耗による素材劣化はランニングコストに直結するため、固形分の特性は素材選定の最終確認として必ず入れてください。

コストと耐久性のトレードオフを数値で見る

素材ごとの価格差は選定コストの計算に欠かせません。PPを基準(指数1.0)とすると、PETは1.1〜1.3、ナイロンは1.5〜2.0、ポリイミドは4〜8程度になるケースが多く、素材単価だけで見ると大きな差があります。ただし、素材単価だけで決めるのは危険です。

たとえば、高温スラリーにPPを使った場合、耐熱性の不足で3〜6カ月ごとの交換が必要になることがあります。同じ条件でナイロンを使えば18〜24カ月の使用に耐えられるとすると、交換コスト・交換作業の手間を含めた総費用ではナイロンのほうが安くなる計算になることも多いです。素材コストは「1枚あたりの価格」ではなく「年間の総取替コスト」で評価する習慣をつけると、選定ミスは大幅に減ります。

素材 耐熱温度 耐薬品性の特徴 コスト感(PP比) 向いている用途
PP(ポリプロピレン) 〜80℃ 酸・アルカリ両方に対応 1.0(基準) 一般廃水処理・広pH範囲のスラリー
PET(ポリエステル) 〜100℃ 強アルカリに弱い 1.1〜1.3 高固形分・摩耗負荷が大きい用途
ナイロン(PA) 〜120℃ 強酸に弱い 1.5〜2.0 高温スラリー・食品・医薬品分野
ポリイミド(PI) 200℃以上 最高クラスの耐薬品性 4〜8 半導体・化学プラントの特殊用途

まとめ

ろ布の素材選定は、耐薬品性・耐熱性・機械的強度の三つをスラリーの性状と照らし合わせることから始まります。pHと温度の組み合わせで素材の候補を絞り込み、固形分の特性でさらに絞る。この順番を守るだけで、選定ミスによる早期交換や想定外のランニングコスト増加を防ぐことができます。コストの評価は1枚あたりの素材単価ではなく、年間の総取替コストで行うのが正確な判断につながります。

スラリーの性状や現場の運転条件が複雑で、どの素材が適切か判断しかねるケースも少なくありません。マキノでは1932年の創業以来、6,000例以上の納入実績をもとに、スラリーの粒径・粘度・温度・pH・固形分濃度を総合的に見てろ布の素材と織り方を提案しています。「サンプルを試験したい」「現在使っているろ布の素材が合っているか確かめたい」というご相談も歓迎しています。

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FAQ|よくある質問

Q:PPとPETはどちらが長持ちしますか?


スラリーの性状によって変わります。摩耗負荷が大きい高固形分スラリーではPETが有利で、PPに比べて寿命が1.5〜2倍になるケースもあります。一方でアルカリ性が強い(pH 12以上)スラリーではPETの加水分解が早まるため、PPのほうが長持ちします。「どちらが良いか」より「どのスラリーで使うか」を先に確認するのが正確な判断につながります。

Q:ろ布の交換コストはどれくらいかかりますか?


ろ布の枚数・サイズ・素材によって異なりますが、素材と運転条件のミスマッチがある場合、適正な素材を使った場合に比べて年間交換コストが2〜3倍になるケースもあります。素材単価だけで選ばず、交換頻度を含めた年間総コストで評価するのが大切です。マキノでは現在のろ布の使用状況をヒアリングしたうえで、コストを含めた最適な素材をご提案しています。

Q:スラリーの温度が高いとなぜろ布が劣化しやすいのですか?


素材の耐熱温度を超えると、繊維の分子構造が変質して強度が急速に低下します。PPを例にとると、80℃を超える環境で連続使用した場合、繊維が軟化し目詰まりや変形が起きやすくなります。耐熱温度の上限はあくまで「連続使用できる上限」であり、一時的なピーク温度ではなく定常運転時の上限温度で素材を選ぶ必要があります。温度の計測データがない場合は、スラリーを投入する配管や槽の温度計測から始めるのが確実です。

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