
医薬品製造の設備選定で「洗浄しやすいか」「記録管理に対応しているか」を最初に確認する担当者は多いですが、設備と液体が直接触れる接液部の素材について、導入前に詳しく調べた経験がない方も少なくありません。
コンタミネーション(以下、コンタミ)のリスクは、運用の問題より先に、素材の設計段階で決まります。
この記事では、医薬品製造の固液分離工程に求められる3つの設計条件、接液部素材が金属コンタミの発生源になる仕組み、そしてMSASシリーズが選ばれる設計根拠と適合しないケースの判断基準をまとめて解説します。
医薬品製造の固液分離工程で問われる3つの設計条件
医薬品の製造工程では、有効成分を高い純度で取り出すために固液分離の精度が直接的に製品品質を左右します。
食品や一般化学品の製造と異なるのは、求められる品質管理の基準が法規制によって明確に定められている点です。
FDA(米国食品医薬品局)やICH Q7(原薬の適正製造基準に関する国際的な指針)では、製造設備がコンタミのリスクを生まない設計であることを求めています。
この前提に立つと、固液分離設備の選定で問われるべき条件は3つに整理されます。
1点目は、金属コンタミを出さない素材設計です。
接液部から微量の金属イオンが溶出すれば、それは即座に製品の不純物となります。
GMP(Good Manufacturing Practice、医薬品の適正製造基準)の観点から、接液部には耐腐食性の高い素材を選ぶことが原則です。
2点目は、有効成分の損失を最小化する精密ろ過です。
ろ過精度が低ければ、高価な有効成分が固形物側に残留するリスクが高まります。
製品ロスはそのままコスト増と歩留まり悪化につながるため、ろ布(フィルター素材)の選定も設備選びと並行して検討が必要です。
3点目は、洗浄・分解・記録管理への対応です。
GMP査察では、設備の洗浄手順や分解のしやすさ、メンテナンス記録の整備状況が確認されます。
構造がシンプルで接液部の分解・清掃が容易な設備ほど、査察対応のリスクを低く抑えられます。
接液部の素材が金属コンタミの発生源になる仕組み
設備の内部で液体と直接触れる部分を「接液部」と呼びます。
ポンプの羽根、配管の内壁、ろ過フレームの内面などが代表的な接液部です。
接液部の素材が炭素鋼(普通の鉄鋼素材)であった場合、スラリー(固体を液体に分散させた懸濁液)のpHや温度、処理時間によっては金属イオンが溶出します。
この溶出が、医薬品製造において問題となる金属コンタミの主要な発生メカニズムです。
炭素鋼と医薬品製造で広く使われるSUS316L(高耐腐食性のステンレス鋼)を、設計条件ごとに比較すると以下のとおりです。
| 比較軸 | 炭素鋼 | SUS316L(ステンレス) |
|---|---|---|
| 金属溶出リスク | 高い(酸・アルカリ系で特に顕著) | 低い(不動態皮膜が溶出を抑制) |
| 薬品耐性 | 低い(中性域以外で腐食進行) | 高い(広いpH域で安定) |
| 洗浄の難易度 | 高い(腐食による表面粗化でバクテリア付着リスクも増大) | 低い(平滑面を維持しやすく洗浄しやすい) |
| GMP適合性 | 適合困難(コンタミリスクが管理基準を超えやすい) | 高い(医薬品・食品業界の標準素材) |
| 耐用年数 | 短い(腐食による劣化が早い) | 長い(適切なメンテナンスで長期維持可能) |
SUS316L が医薬品製造で選ばれる理由は、単に「錆びにくい」からではありません。
表面に形成される不動態皮膜(パッシベーション層)が金属イオンの溶出を物理的に抑制し、かつ平滑な表面が洗浄の均一性を高めるという、複合的な設計上の利点があります。
ICH Q7 でも「装置の接触面は、製品品質に悪影響を与えない素材で製作されなければならない」と規定されており、SUS316L はその要件を満たす代表的な素材です。
また、接液部の素材だけでなく溶接部の仕上げ精度も重要です。
溶接ビード(溶接時にできる盛り上がり部分)が粗い状態では、そこに液体が滞留してコンタミのリスクが高まります。
設備選定の際は、素材のグレードと同時に溶接・仕上げの品質基準も確認することを推奨します。
MSASシリーズが医薬品製造工程に選ばれる設計根拠
マキノのMSASシリーズは、全接液部をSUS316L で統一した小型・精密処理向けのフィルタープレスです。
医薬品製造の現場で選ばれる理由は、3つの設計根拠に集約されます。
1点目は、全接液部SUS316L 設計による金属溶出リスクの排除です。
フレーム、配管接続部、内部構造に至るまで、液体と触れる部位はすべてSUS316L で構成されています。
「一部だけ別素材」という妥協がないため、設備全体としてのコンタミリスクを均一に低く抑えられます。
2点目は、ラボテストから実生産まで対応できるスケール設計です。
MSASシリーズは10〜20L規模の小ロット処理に対応しており、処方開発段階のラボテストや治験薬(臨床試験用の医薬品)製造のような小規模・高付加価値の処理工程に適しています。
大型設備が不要な段階から正式な素材仕様で評価できるため、スケールアップ時の設備切り替えコストを抑えられます。
3点目は、洗浄・分解・メンテナンスのしやすさです。
接液部の構造をシンプルに保つ設計思想により、分解と再組み立てに要する工数が少なく、GMP査察の際に提出する洗浄手順書の記載内容も整理しやすくなっています。
MSASシリーズが適合しないケースと事前確認の判断基準
MSASシリーズは精密処理と高純度要件に強みを持つ設計ですが、すべての固液分離工程に適合するわけではありません。
導入を検討する前に、以下の3点を事前に確認しておくことを推奨します。
1点目は、処理量のスケールです。
MSASシリーズは小ロット・精密処理向けの設計であり、大量連続処理を必要とする量産工程には別途大型設備の検討が必要です。
月産トン単位の大量処理を前提とする場合は、担当者との仕様すり合わせを早めに行うことで、選定の方向性を明確にできます。
2点目は、スラリー中の固形物性状です。
研磨性の高い固形物(シリカ系や金属粒子など)が含まれる場合、SUS316L の表面が摩耗して不動態皮膜が損傷するリスクがあります。
処理対象の固形物の硬度・粒径・濃度を事前に確認し、必要に応じて素材や設計の変更を検討してください。
3点目は、有機溶剤系スラリーへの対応です。
有機溶剤を含む処理液の場合、SUS316L の耐薬品性に加えて、設備全体の防爆(爆発防止)要件への適合が求められます。
溶剤の種類・濃度・引火点を確認のうえ、防爆仕様の有無を含めて個別に相談することをお勧めします。
まとめ
医薬品製造の固液分離でコンタミを防ぐには、運用手順より前に、接液部の素材設計が決定的な役割を担います。
炭素鋼とSUS316L の違いは、金属溶出リスク・薬品耐性・洗浄適性・GMP適合性のいずれの観点からも明確であり、規制要件を満たす設備の基準としてSUS316L は医薬品業界の事実上の標準です。
MSASシリーズは全接液部SUS316L 設計、ラボスケール対応、シンプルな分解構造という3つの設計根拠によって医薬品製造工程の要件に応えています。
適合しないケース(大量処理・研磨性固形物・有機溶剤系)の事前確認を行ったうえで、ご要件に合った仕様をご相談ください。
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FAQ|よくある質問
Q:MSASシリーズはGMP査察に対応できますか?
全接液部SUS316L 設計のため素材面でのGMP適合性は高く、医薬品・食品業界向けの設計基準を満たしています。
査察対応には設備の仕様だけでなく洗浄手順書やメンテナンス記録の整備も求められます。
書類整備のポイントについてもご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。
Q:ラボスケールでの評価から量産への移行は可能ですか?
MSASシリーズは10〜20L規模の小ロット処理に対応しており、処方開発段階や治験薬製造での評価に適しています。
ラボスケールと量産スケールで同じ素材仕様(SUS316L)を使用できるため、スケールアップ時のデータ継続性を確保しやすい設計です。
量産移行のタイミングや設備仕様のすり合わせはご相談ベースで対応しています。
Q:有機溶剤を含むスラリーにはMSASシリーズを使えませんか?
有機溶剤系のスラリーに対応するには、SUS316L の耐薬品性確認に加えて防爆仕様の検討が必要です。
溶剤の種類・濃度・引火点によって要件が異なるため、一概に「使える/使えない」とは言えません。
処理液の詳細をお知らせいただければ、適合可否と必要な仕様変更についてご案内します。






